「第32回都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会2019」は1日目が終わり、各会場で男女の決勝トーナメント出場チームが決まった。男子の予選Hリーグは初戦で山口県に快勝し、2戦目で和歌山県をオーバータイムの末に破った群馬県が決勝トーナメント進出を決めた。
山口県は初戦で和歌山県に快勝しながら、決勝トーナメントのコートを踏むことができなかったのである。それでもHリーグのなかで最も平均身長の低いチームながら、トランジションオフェンスと1対1にオフェンスの主軸を置き、3ポイントシュートを織り混ぜる山口のバスケットはどのチームよりも小気味よかった。
得点を取られても相手ディフェンスの陣形が整う前に全員が走り出し、ボールを受けたら積極的にゴールへアタックする。相手チームは得点シーンに喜ぶ間もなく、必死に戻るのだが、山口県のスピードにわずかでも遅れると失点、もしくはファウルになってしまう。身長の小さいチームの真骨頂とも言うべきバスケットを山口県は展開していったのである。
「例年どおり今年も高さはありませんが、相手の高さから逃げず、真っ向勝負で戦いました。選手たちもみんな、その共通理解を持ってやってくれました」 チームを率いる中村高之コーチは今年のチームをそう振り返る。 1月以降、毎週末に集まり、チームのコンセプトを浸透させていく。それが今大会では「得点を取られても落ち込むことなく、次のプレーにつなげられていた」という手応えに昇華したわけだ。
チームで磨きをかけたのは戦術面だけではない。 今年の山口は例年以上にチームの一体感が強かった。勝っているときも、負けているときも中村コーチを中心としたベンチの熱が冷めることはなかったのだ。 「技術的には県内でもスキルの高い子たちなんですけど、今年はチームワークを武器にしようと言ってきました。もちろん練習もしましたけど、今年は専門の講師の方を招いてチームマネジメントの講習などもおこないました」 中村コーチがそう明かす。 「遠征の強化費をそちらに充てて、選手と保護者の方にも聞いてもらったんです」
自分たちのチームをどんな色にしていくのか。選抜チームだからといってコーチが一方的に決めるのではなく、コートでプレーする選手たち自身が考えて、みんなでその方向に向かって突き進む。それができたからこそ山口県は最後までひとつになっていたのだ。 もちろんそこに保護者や胸を貸してくれた先輩たち、県内の指導者の助けがあったことは言うまでもない。しかしそこに中学生の彼らに自立を促す座学があったことも忘れてはいけない。
講習と聞くと普通の中学生なら「そんな話を聞くよりバスケットがしたい」と敏感に反応しそうなものだ。しかし1年生で唯一今年のチームに選出された⑮坪井遥生はそれを否定する。 「チームで講習を聞くのは初めての経験でしたけど、話を聞くことで自分たちの弱さが見えてきました。その講習のなかで『笑顔が大事』と教えてもらえたので、今大会のコートの上でもみんなでそのことを言い合うことができました」
最後は群馬の高さの前に敗れたが、最後まで笑顔を忘れず、自分たちのバスケットを貫いたという意味では彼らに後悔はないだろう。 むろん負けた悔しさは残る。坪井も目に涙を浮かべながら「この経験を生かして、もっと上の舞台に上がれるよう、僕自身もチームに刺激を与えられる選手になりたいです」と話していた。 ジュニアオールスターは今年度でその幕を下ろすが、選抜チームとして戦った今大会の経験はきっとどこかで芽吹くはずだ。